Happy Birthday Taylor!(2017)
※LAに秘密のシェアハウスを持っているというサイコーなご都合設定AUです(パート2)
「何だよ」
ドイツでの撮影が一段落したと思ったらドラマのプロモーションが立て続いて、NYに釘付けになっていた間にこんなことになっていたとは!
アレクサンダーは嘆きに満ちた表情を見せたかと思うと、その場に膝を折って頭を抱えた。
「アレク?」
テイラーの方はと言えば、大げさな動きは手足が長いせいだと思っているので、特に気に留めた様子はない。さっき近くで買ってきたグリーンスムージーを吸い上げているところだ。
少し前の撮影で一緒になったコリン・ファレルがよく差し入れてくれた店のもので、テイラーもすぐに気に入りになった。しかし、食生活がそれほどヘルシーではないタイプのアレクサンダーは一口飲んでからは、一切話題にも出さない。
「だから顔見て電話してって言ったんだ……」
「スカイプ?」
「そう、それ」
テイラーは「苦手なんだよ」と眉を寄せて、頭を横に振った。他の友人達に言われても断ってきている。なぜと理由を聞かれても、たいしたものがあるわけではないのだけれど。
モデルや俳優をやっているから、と言うのもあるかも知れない。パパラッチに追いかけられることも滅多にないし、街中の写真撮影ぐらいならいくらでも応じる。
だけれど、カメラの前で始終自分を一番有効な形で見せようと努力している日々の中、気の置ける仲間とおしゃべりする時ぐらい、カメラを意識したくないと思っていた。
それに、顔を見せて電話となれば、何か余計なことを考えて取り繕ってしまいそうで、それも使わない理由の一つだ。
「顔なんか見なくても……」
「なんか?」
「ごめん」
卑屈を気取ったことはないのに、ほんの少しの言葉のあやも聞き逃さないアレクサンダーは下の方から恨めしげにこちらを見上げている。これは兄弟が多いからというのもあるのだろうか?
誰一人寂しい思いをしないように、と教えられてきたのかもしれない。
想像だけど。
そういう話をもっと声に出してした方がいいとは思っているのだけれど、なぜかアレクサンダー相手だと口数は一気に減ってしまう。電話の時もむこうが酔っていることが多いのもあって、さらに少なくなる。
酔っ払いの支離滅裂なおしゃべりも、別に嫌いじゃなかったし。
でも、このままではその代償(というと大げさだが)に、ビデオ電話を強制されてしまいそうだ。
それは困る。
「……そんな顔するなよ」
「どんな……?」
困った顔、とアレクサンダーは子供が拗ねたような表情を見せながら、ゆっくりと立ち上がる。大きな手の平をテイラーの方に向け、それからゆっくりと両の肩に乗せる。
「俺はね」
Tシャツ越しに伝わってくるアレクサンダーの体温は相変わらず高い。それなのに彼はわりあいに寒がりだ。特に春先の寒い日が苦手で、ちょうどこのぐらいの時期に会うといつも以上にべったりだ。
今日はキスもまだだ。
「うん」
高いところからの視線は、最初は冷たいと感じた。アイスブルーの目の色のせいもあって。
でも、今はその「小さいもの」に向ける慈しみも混ざっている、愛情のこもった視線が気に入っている。だから、見つめ返すことに一生懸命になり、言葉をどこかに置いてきてしまう。
アレクサンダーはいつもテイラーの大きな瞳がこぼれないように、と冗談まじりに言いながら瞼に唇を押し当てる。
今日も、そうだ。
「撮影のためでも何でも」
「うん」
「久しぶりに見て、こんなに首が細くなってたら心配になる」
ごめん、のかわりにキスをしたらどうだろう。そう思ったテイラーは少しあごを上げてアレクサンダーの唇の端に自分のそれをそっと押し当てた。
チチチ、と舌を鳴らされたのは「そこじゃない」と言いたいのだろう。 でも、今は一応のところ説教のさなかだ。一応遠慮をしてみたのだけれど、アレクサンダーは目を細めてこちらの様子を監視している。
ええと。
俺は今何で叱られそうになっているんだっけ?
「役作り?」
「ん、指示があったんだよ」
「じゃあ、それだけでも教えてくれよ。心臓に悪いから」
そういえばブロンドにした時もちょっとした大騒ぎだったな、とテイラーは数年前のことを思い出し、すっかり「長い付き合い」になった秘密の恋人の、今度は唇にキスを落とした。
「約束する」
「……よし」
肩におかれていた手は、いつの間にか背中、腰まで回っている。けして「小さいもの」ではないのに、すっかり体が腕の中に納まってしまうのだ。
これも嫌じゃないんだけどさ、とテイラーは久しぶりの安心感に包まれながら、何度かキスを繰り返す。こっちの方がおしゃべりだ、とアレクサンダーはいつも嬉しそうに喉を鳴らす。
だから、きっと。
二人の間ではこのぐらいが丁度いいのだと思う。お互い、長電話や馬鹿話をして夜更かしする友人には事欠かない。
「あのさ」
でも、こんな風にキスを繰り返し、肌に触れ、体温を感じるだけで幸福感に安堵する相手は彼だけなのだ。
なあ、本当にビデオ画面だけで安心するのか?
俺は、嫌だな。
「ン?」
濡れた唇でにやりと笑ったアレクサンダーに舌を出して見せたテイラーは、少しだけ視線をくるりと巡らせてから、言い忘れていた大事なことを告げることにした。
「……誕生日前に、撮影に入るんだ。え、ええと……明後日には」
ぎゅっとアレクサンダーの大きな手はテイラーの臀部を強く握りこむ。
「いてえ……って」
お祝いしたかった。
しばらくオフなのに。
今言うなんて酷い。
すべての恨み節がそこに込められた感じだ、とテイラーは身をよじりながらそんな風に思った。
「……悪いこ」
アレクサンダーはそう言って、額を少し痛いぐらいにこちらにぶつける。また、いてえ、と抗議する羽目になった。
でも、彼の口元は少し緩んでいて、無理に怖い顔を作ろうとしていることがすぐにわかった。テイラーは唇をぺろりと舐めた後に、にっこり笑ってアレクサンダーの目を見返す。
「その時はスカイプでお祝いしてくれよ」
そして今のタイミングで一番ベストな対案を出すことに成功した。
「……ぐぐぐ」
悪いこ!とアレクサンダーはもう一度繰り返すと、白い肌を少し赤くしたかと思うとテイラーの体を抱き上げようとして、留まる。
「……いい?」
これにもいろんな意味が含まれている。テイラーはそのいくつもを頭に思いうかべて、それからこう言った。
「当然」
どうやらその答えはパーフェクトだったようだ。アレクサンダーは少しだけ気合いを入れて(全盛期よりはだいぶ筋肉は控えめになっていることだし)、テイラーの体を抱き上げ、ベッドルームに向かった。
途中でよろけたことには気付かないふりをして。
かわりに、こめかみと目元に唇を押し当てた。
————————–
もう数時間後、素面のアレクからお祝いしてもらうんですよ!
たぶん服は着てないから、背後注意でね☆
というわけで、きっちゅお誕生日おめでとーー!
私の今言いたいことは↑でアレクに全部言わせましたw