ターザン撮影直後のお話。
アレク甘えん坊で軽めw
まだ、起きない。
起きないったら、起きないぞ。やっと朝一番のプロテインを飲まなくてよくて、ビールを浴びるように飲んだって契約違反だと言われない日々が帰ってきたんだ。
「……ひとっ走り行ってきたいんだけど」
俺の決意は固いんだ。腕の中に大人しく収まっててくれよ、ダーリン。もう「走る」とか、言わないで、聞きたくない。ダンベルはあと三年は見たくない。
裸足で走ったこと、あるよな。
食事制限も、あるよな、ごめん。俺より百倍その辺はプロだったよな。
うーん、でもだめ。
「……やだ」
モバイルに「今何時?」と聞かなくても、目を開けなくても部屋が十分に明るいことがわかる。朝なのか昼なのかはわからないけれど、彼が日課を異国の地でも欠かさずやっておきたいという主張するからにはきっと朝なのだろう。
グレーのフーディー着て、ストイックにリージェンツパークをジョギング?
まあ、いいんだけどさ。汗に上気して頬を真っ赤にしてるところはかわいいしさ。運動するとご機嫌になるタイプだしね、よく知ってるよ。
だけど、だめ。
「うーん……」
困った声を出しても今日の俺には利かないぞ。だいたいおはようのキスだってまだじゃないか。おねだりはいつもあんまり上手じゃなくて、そこが好ましいんだけどキスは忘れて欲しくないなあ。
まあ、身動き取れないようにしてるのは俺の方だけど。
「だめったらだめ……俺はしばらく……健康的なことはしたくないんだ……」
しばらくの間、ジャングルの王者なんていうものになっていたものだから、それはもう大変だった。
二十代前半なら「あー、楽しかった!」で済むだろうけど、もうこの年だと乗り切っただけでも褒めて欲しいぐらいなんだ。
あー、でも、うん。
褒めてはくれたよな。言葉にはしてくれてなかったけど、大丈夫、俺はちょっとした能力者だからな。照れ屋のおまえが黙っていても目の色とか、ちょっとした態度の差でわかるんだよ。
それに、昨日の夜はもうちょっとあからさまだったし。
ヘイ、照れるなって。
「……じゃあ、シャワー」
「まだ、だめ……」
俺はこのままおまえを抱きかかえたまま、頭から全部脳内で再生し直したいんだ、あと3回ぐらい。いや、5回だっていい。
ここまで押さえ込めるのは今ぐらいだからな。
何しろ、腕の力も脚の力も二倍ぐらいになっているんだから。
まあ、二倍っていうのは言い過ぎかな。
「アレク……」
ふふ、困った声出しても駄目だって。
ぎゅーっと力をこめると少し苦しげな声で名前を呼んでくれるので、だんだん愉快になってくる。くすくす笑いながら頬をついばむ。
なあ、テイ。
おまえも思い出してくれよ、昨日の夜のこと。あの瞬間だけはプロティンに感謝したぐらいさ。
シャツを脱いだら、生唾を飲み込んでくれたんだからな。
ハワイにいた頃は6パックじゃなかったもんな。
すぐ後のキスも最高にジューシーだった。
なあ、思い出した?
「……ごめん……」
シャワーを浴びた後もテイラーはまだふくれ面だった。まあ、ジョギングしたいというところを、夜の再現というか、さらに濃いベッドに引きずりこんでしまったから、悪くないとは言わないけれど。
まあ、パワーがあるとできることも色々あるよな?ロンドンのホテルはベッドがあんまり大きくないから、窮屈だけどその分ぎゅっと抱え込んで、ほら、な?
あれ?反省してないって?
「運動にはなったけど」
「だろ?」
不本意です、とにらまれたけれど、上目使いにされると嬉しくなってしまう。仕事の時は眉間に皺を寄せて難しい顔をしている時が多いようだけれど、本当はこんなに目が大きい。
ごめんのキスは額に一つ。
「会いに来てくれて嬉しかったんだよ」
にんまり笑えば、許してくれることがわかっているから、ずるい男だよな、俺も。
長男だけど、甘えん坊なのはすぐに見抜かれていたから、隠すことはとっくの昔に止めたんだ。
「ニューヨークからだったらそんなに遠くなかったし」
オフだったし。
今度の膨れ面は照れ隠しだ。へへ、かわいいな。
「あ、そうだ。今夜はダディのところにご馳走食べに行くから」
「……俺も?」
ホテルの食事も、有名ガストロノミーへ行くのも大いに結構だけれど、食事節制の後は何たって、ダディのスペシャルメニューだ。
あのこってりしたクリーム味なしでは始まらない。
「当然」
「でも、ご迷惑じゃ……」
五歳年上の俺への「遠慮」は今はもうほとんどなくなってしまったけれど(でもたまに見せてくるのがいいんだよな)、ベテランへの態度はこの通り。
「なんで?」
いや、でもちょっと、いつもと違うぞ?
「だって……名優じゃないか……」
頬をも染めて、目を伏せるテイラーに今度は俺が膨れ面になってしまう。
「何だよ」
ん?と首を傾けられると弱いのを知ってるのか、どうなのか。その通り、効果はばっちりさ。
「妬いた」
でも、キスでなだめてくれないと。
そうそう、頬だけじゃ駄目だぞ、うさぎちゃん。
「……何でもに嫉妬するなよ、自慢のお父さんだろう?」
シャワー後のしっとりとした唇を堪能した俺のにやけ面を呆れた顔で見ながらの問いかけに、俺はきっぱり言ってやった。
「それとこれとは別」
テイラーは小さく頷くと、にっこりと笑ってくれた。
それから。
「じゃあ、腹ごなしに夕方走りに行くからな」
オーケイ、付き合うよ。
たまには歩み寄りも必要だからな。その前にラウンジのケーキ、十個ぐらい食べてやるつもりだ。
大丈夫、もうしばらく上腕二頭筋も大胸筋も6パックも楽しめるぞ。
たぶん、一ヶ月ぐらいは。
いける、と思う!
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たぶんノーマルハート後ぐらいだったかなー
っていう見当で。